栗園醫訓五十七則 解説(3)
一、其人の強壮羸弱と病の軽重緩急とを権りて薬の大小多少の剤を定むべし。
(此れを医の三権と云う、説、『傷寒名数解』に詳らかなり。)
勿誤薬室方函序列にも同様の記載があります。
一、薬方の分量煎煮は古今宜しきを異にし、強弱性を随うは固(もと)より言を待たず、今一切欠如する者は、専ら時に臨んで斟酌(しんしゃく)し、変に応じて活用を要すればなり。若し夫れ丸散丹膏は其の分量少しく誤れば則ち人を害すこと鮮(すく)なからず。故に詳らかに之を記す。
患者さんによって、同じ薬方を使うといえども、薬方の適量には十分注意をしろと。
陽証の体質の患者さんにも陰証の病証が部分として現れることはあります。
骨折後の神経痛などは陽性の体質者でも陰性の体質者でも同じような病態を呈しますが、体質的な背景が違えば、薬方の適量とその治療期間は変わってくることが想像されますし、臨床上は重要なことと思います。
陽性の患者さんに陽証の病態があれば、薬の大小は大を採り、治療期間はそれなりにかかる。
陽性の患者さんに陰証の病態があれば、薬の大小は小を採り、治療期間はわりと短くて済む可能性大。
患者さんの体質的な背景と病の状態を見比べて、同じ治療をするにしても患者さんごとに薬方の適量は検討すべきであるということです。
成人だからこの量というようには、薬用量を決められないということですね。
体質的な背景と病態の勢い(病勢)によって、適量の検討をするのは難しいですが、本当はやるべきでしょうね。
一、傷寒雑病とも三陰三陽の病位を定むべき事。
浅田流漢方入門において長谷川弥人先生は「雑病にも、この三陰三陽があるとするのは、浅田流漢方医学独特のもので、諸先哲がこれまであまり強調していない。」と書かれています。
これはとても大事なことだと思います。藤平健先生の漢方処方類方鑑別便覧などは三陰三陽にきっちりわけてますよね。
漢方薬方を覚え始めた頃、三陰三陽は傷寒論の世界だけと思っていましたし、あまりこのことを教えてくれる人も居ませんでした。しかし今は、まず三陰三陽を見るところからやっています。
『この患者さんは陽明に近い少陽の実、水毒少しあるかな、瘀血は強いな』など、三陰三陽と気血水で大まかに絞込みをして検討します。
望診、大雑把な問診の流れの中で、これをなるべくハッキリさせて取り組むと、自然と答えがでてくる時もあります。
勉強を続けてくるとパッと見た感じと症状から「多分、当帰芍薬散かなー」と見当をつけられるようになってきますが、「舌湿潤、やや歯型もあり、微白苔、太陰で水毒が強い傾向」とみてから当帰芍薬散証の可能性が高いと考えたほうが迷いが少ないですし、裏づけがしやすい。
また、症候から当帰芍薬散証と判断した場合、体質とのずれがどのくらいあるかで、服用期間が長いほうが良いのか、短いほうが良いのか、何か補助をしたほうがいいのかを考えることが出来るようになります。
私は地元の漢方研究会などで講師を頼まれると必ずこれを話していますが、この考え方を持っているかいないかでは、やはり同じ薬方・薬味の勉強をしても理解度が全然違うと思うからです。
この訓は、非常に大事なところと思いますので、三陰三陽の定義や流れをぜひ一度復習して実際の患者さんで大雑把でもみておく訓練をしてみると良いと思います。
三陽は少陽を中心にして、陰・虚になると太陰に限りなく近づき、陽・実になると陽明に限りなく近づきます。
三陰はまずは大雑把に「陰」として捉え、三陽と陰で大まかな患者さんの病位を検討しておくことから始めましょう。
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解説(4)へつづく